放射製氷の理論と応用
製氷とは水を凍らせること。つまり水から熱を奪う伝熱過程です。熱伝達には、①伝導、②対流、③放射の3つの形態があり、私たちの研究室では特に「放射」による製氷に取り組んでいます。また、新たな原理にもとづく製氷技術の開発にも取り組んでいます。
放射冷却によって製氷すると、結晶サイズが大きくなり、条件によっては氷塊が一つの結晶=単結晶になります。氷が厚くなっていっても成長速度が低下しにくい、という学術的に興味深い未解明の減少も観察されています。
これまでの研究の概要
- 数十㎜から100㎜程度のサイズの氷の単結晶は、学術研究用途に必要とされていますが、製造が容易ではありません。
- 一方、結晶サイズが大きく目(結晶の方向)が揃った氷は、解けにくく見た目も美しいため、飲料用途でも大きなニーズがあります。加えて、結晶構造だけでなく気泡が無いことも美しさ、解けにくさの点で氷の価値を高めます。
- 私たちが取り組んでいるのは、無気泡で単結晶の氷塊の安定的な製造技術の確立です。
- 無気泡氷は製造手順の工夫で達成できる見通しが立ちました。単結晶氷は最大で直径200㎜程度まで成功していますが、大きくなるほど成功する確率が下がるため、安定させるための条件を探索しています。
- 応用として、オンザロック用の丸氷が4つとれるサイズの氷塊の製造装置をリゾートホテルに設置し、製造が始まっています。2,3日に一回ずつ収穫しながら実際にバーで提供していて、お客様の評判も上々とのことです。
- 氷の扱いの達人ともいえるバーテンダーに使ってもらってみたところ、カットしやすい(真っ直ぐ切れる)、解けにくい(飲み物が薄まりにくい)、炭酸が抜けにくい、などの興味深いコメントを頂きました。
- 他のバーテンダーからも「ぜひとも使ってみたい」との申し出を頂いていますので、製造装置を多数並べて量産体制を整え、市販を開始するべく新潟県内の企業と準備を進めています。
現在取り組んでいる研究課題
- 学術研究用途に要望の多い200㎜角の氷の単結晶安定的に製造するため、凍結が始まるときの最初の結晶(初晶)を単一にかつ方位を制御して製造できる条件を見出したいと思います。また着氷の実験のために条件の揃った氷試料が求められていまので、これも提供できるように準備をしていきます。
- 熱伝導による製氷の場合には、氷が厚くなると成長が遅くなるというが理論的に証明されています(ステファン問題)。しかし放射による製氷の場合には、成長速度の低下が小さいことが実験的にわかっています。その理論的な解明はまだできていません。氷試料に近赤外光、赤外光の透過特性を明らかにして、上記の疑問への答えを見出したいと思っています。
- 単に透明で綺麗なだけではなく、もっと斬新なアイデアで新しい氷の価値を追求していきたいと考えています。
この研究課題に関連する論文など
著者 |
論文名 |
掲載誌、巻号、頁 |
発行年 |
上村靖司,星野真吾 |
放射冷却による製氷過程の観察 |
雪氷, 70(5), 477-485. CiNii |
2008 |
問い合わせ先
雪氷工学工学研究室
〒940-2188 新潟県長岡市上富岡町1603−1
長岡技術科学大学
電話:0258−46−6000(代表)
mail : kami @ nagaokaut.ac.jp※不要なスペースを削除してください。